始原地球における巨大隕石衝突:生命進化への貢献
地球初期における生命の起源と進化は、いまだ多くの謎に包まれている。近年、巨大隕石衝突が生命の誕生や進化に重要な役割を果たした可能性が示唆されている。本稿では、約32.6億年前の始生代に発生した巨大隕石衝突に着目し、当時の微生物生態系への影響について最新の研究成果に基づき考察する。
Drabonら(2024)は、南アフリカに残された地質学的記録から、始生代の巨大隕石衝突の痕跡を詳細に分析した。その結果、直径37~58kmにも及ぶ炭素質コンドライト隕石が地球に衝突し、全球規模の津波を引き起こしたことが明らかになった。衝突地点から放出された塵埃は大気中に拡散し、太陽光を遮断することで地球規模の寒冷化を引き起こした可能性がある。また、衝突に伴う熱エネルギーは海水温を上昇させ、海洋表層の蒸発を引き起こしたと考えられる。
このような壊滅的な環境変化は、当時の陸上や浅海域に生息していた微生物生態系に壊滅的な打撃を与えたことは想像に難くない。しかし、Drabonらは、隕石衝突がもたらした環境変化が、長期的には微生物の繁栄に寄与した可能性を指摘している。
隕石衝突は、生命にとって必須の元素であるリンと鉄を海洋に供給したと考えられる。リンは、DNAやRNAなどの核酸、細胞膜の構成成分であるリン脂質、そしてエネルギー代謝に不可欠なATPなど、生命活動に必須の元素である。始生代の海洋では、リンは不足していたと考えられている。大陸からのリンの供給は限られており、火山活動による供給も現代ほど活発ではなかったためである。炭素質コンドライト隕石は、重量の約1%をリンが占めており、衝突によって数百ギガトンものリンが海洋に供給された可能性がある。
一方、鉄は、始生代の深海には豊富に存在していたが、浅海域では不足していた。巨大隕石衝突によって引き起こされた津波は、深海の鉄を浅海域に運搬する役割を果たしたと考えられる。衝突後の地層に含まれる赤鉄鉱は、浅海域における鉄濃度の増加を示唆している。
リンと鉄の増加は、始生代の微生物にとって好ましい環境変化であったと考えられる。特に、光合成を行うシアノバクテリアは、鉄を必要とする。シアノバクテリアの光合成活動は、地球の大気中に酸素を供給し、生命進化の基盤を築いた。
Drabonらの研究は、巨大隕石衝突が地球初期の生命進化に多大な影響を与えた可能性を示唆するものである。隕石衝突は、大量絶滅を引き起こす一方で、生命に必要な元素を供給することで、新たな進化の道を開いた可能性がある。この研究は、地球における生命の起源と進化、そして地球外生命の可能性を考える上で重要な示唆を与えていると言えるだろう。
補足
- 始生代には、地球への隕石衝突頻度が現代よりも高かったと考えられている。
- 隕石衝突による環境変化は、生物の大量絶滅だけでなく、進化を促進する要因としても作用してきた。
- 隕石衝突は、地球の気候変動、地質学的変化、そして生命進化に多大な影響を与えてきた。
参考文献
- Drabon, N., et al. (2024). A giant impact triggered the deposition of the 3.26 Ga Moodies Group, Barberton Greenstone Belt, South Africa. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(43), e2403819121.
- Sleep, N. H., & Zahnle, K. J. (2001). Carbon dioxide cycling and implications for climate on ancient Earth. Journal of Geophysical Research: Planets, 106(E1), 1373-1399.
- Kasting, J. F. (1993). Earth’s early atmosphere. Science, 259(5097), 920-926.