2024年9月17日 多国間協調主義の顕現:スーパーガルーダシールド24に参加して
近年の国際安全保障環境は、地政学的リスクの増大とパワーバランスの流動化により、未曾有の変容を遂げている。特に、東アジア地域においては、中国の台頭とそれに伴う覇権主義的な行動が、地域の安定を揺るがす深刻な脅威として顕在化している。このような状況下、我が国は、従来の日米同盟を基軸としつつも、多国間協調主義に基づく新たな安全保障協力の枠組みを構築することで、多層的な抑止力を形成し、国家の安全と繁栄を確保する必要性に迫られている。
本年8月26日から9月6日にかけてインドネシアで開催された多国間共同訓練「スーパーガルーダシールド24」は、インドネシアと米国を主軸に、我が国を含む22カ国が参加するアジア最大規模の軍事演習であり、島嶼奪回作戦を想定した実動訓練を通じて、参加各国間の相互運用性向上と戦術技量の練磨を目的とするものである。
今回の演習は、単なる軍事訓練の枠を超え、地政学的な戦略的意義を孕むものであったと言える。第一に、他国の海洋進出を牽制し、力による現状変更を阻止するという明確なメッセージを国際社会に発信する効果を持つ。歴史を紐解けば、古代ローマ帝国の「パンとサーカス」政策に見られるように、軍事力の誇示は、民衆の求心力を高め、国家の威信を内外に示すための有効な手段であった。現代においても、軍事演習は、国家の意志と能力を可視化するパフォーマンスとしての機能を有していると言えるだろう。
第二に、参加各国との間で、安全保障分野における信頼関係を構築し、緊密な連携体制を確立する契機となる。軍事同盟は、国家間の利害が一致した際に形成される、いわば「必要の産物」である。古代ギリシャの都市国家群がペルシア帝国の脅威に対抗するために結成したデロス同盟は、その好例と言えるだろう。現代においても、共通の脅威に直面する国家は、安全保障上のリスクをヘッジするために、同盟関係やパートナーシップを構築する傾向にある。
第三に、我が国自身の防衛力強化に資する貴重な教訓を得ることができたことだろう。特に、水陸両用作戦における米軍の高度な戦術・技術は、我が国にとって大いに参考になるものであったに違いない。軍事技術の進化は、国家の盛衰を左右する重要な要素である。火薬の発明が中世ヨーロッパの封建社会を崩壊させ、近代国家の形成を促したように、軍事技術の革新は、常に国際秩序に大きな変革をもたらしてきたのだ。