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レーザー兵器について

国をつくり、国を守る

 米陸軍は、敵のドローン攻撃から海外駐留軍を守るため、史上初めて高エネルギーレーザー兵器P-HELを配備し、中東で実際に脅威を無力化したと発表しました。これは、1970年代から指向性エネルギー兵器の研究を続けてきた米軍にとって技術的勝利であり、レーザー兵器がより広範に利用される新たな時代の幕開けとなる可能性があります。

 レーザー兵器は、標的を狙って強力なレーザー光線を照射し、破壊または無力化する兵器システムです。SFの世界ではおなじみの存在でしたが、近年、その開発と実用化が急速に進んでいます。米軍は、これまでにも様々なレーザー兵器を開発し、実験を行ってきました。例えば、ボーイング747をベースにした空中レーザーYAL-1は、飛行中の弾道ミサイルの撃墜に成功しています。これは、レーザー兵器が理論上はミサイル防衛に利用できることを示す画期的な成果でした。また、ハンヴィーに搭載されたZeus-HMMWVは、地雷や不発弾の処理に活用されました。レーザーの指向性と高エネルギーを利用して、爆発物を安全に処理できることを実証したのです。さらに、海軍は、艦船に搭載したLaWSでドローンや小型船舶の無力化に成功しています。これは、レーザー兵器が、従来の火器では対処が難しい小型で高速な目標に対しても有効であることを示唆しています。

 しかし、これらのレーザー兵器は、あくまで実験的なものであり、本格的な実戦配備には至っていませんでした。その状況を変えたのが、比較的安価なドローンによる攻撃の脅威の増大です。ドローンは、正規軍だけでなく、非正規武装勢力によっても広く利用されており、その脅威は近年、ますます深刻化しています。2021年には、米中央軍司令官が、民生用ドローンの兵器化が米軍にとって最大の脅威であると警告しました。実際、今年1月には、イランの支援を受けた武装集団によるドローン攻撃で米兵が死傷する事件も発生しています。これは、ドローン脅威がもはや机上の空論ではなく、現実のものとなっていることを痛感させる出来事でした。

 こうした状況を受け、米軍は、レーザー兵器の実戦配備を加速させています。今回配備されたP-HELは、20キロワットの高出力レーザー兵器システムで、ドローンなどの小型航空機を効果的に無力化できるとされています。P-HELは、すでに中東で実戦投入され、敵のドローンを撃墜するなどの戦果を上げています。これは、レーザー兵器が実戦で有効であることを示す初めての事例であり、今後のレーザー兵器開発に大きな弾みをつけることになるでしょう。

 レーザー兵器の利点は、その費用対効果の高さです。従来のミサイル防衛システムは、高価なミサイルを消費するため、運用コストが高額になるという問題がありました。しかし、レーザー兵器は、電気エネルギーさえあれば何度でも発射できるため、非常に安価に運用することができます。1回のレーザー照射のコストは、わずか数ドルから数十ドル程度とされています。これは、1発数万ドルから数百万ドルもするミサイルと比較すると、圧倒的に低コストです。また、レーザー光線は光速で飛ぶため、高速で移動する標的にも命中させることができ、弾薬の補給も不要です。

 しかし、レーザー兵器の実用化には、まだ多くの課題が残されています。例えば、レーザー光線は、大気中の塵や水蒸気によって減衰してしまうため、悪天候下では効果が低下するという問題があります。特に、霧や雨、砂嵐などの環境下では、レーザー光線が散乱してしまうため、十分な威力を発揮できません。また、高出力レーザーの生成には大量の電力を必要とするため、艦船や車両への搭載には技術的な困難が伴います。特に、小型のドローンやミサイルを迎撃するには、瞬時に高出力を発生させる必要があるため、電力供給システムの開発が重要な課題となっています。さらに、レーザー兵器の運用には、高度な訓練を受けた兵士が必要であり、人材育成も重要な課題です。レーザー照射のタイミングや角度、出力などを正確に調整するには、専門的な知識と経験が必要になります。

 これらの課題を克服するため、米軍は、レーザー兵器の研究開発に多額の予算を投じています。レーザー発生装置の小型化や高効率化、大気の影響を受けにくい波長のレーザーの開発、電力供給システムの改善など、様々な研究が進められています。また、同盟国とも協力し、レーザー兵器の共同開発や情報共有を進めています。これにより、技術的な課題を早期に解決し、レーザー兵器の実用化を加速させることが期待されています。

 レーザー兵器は、まだ発展途上の技術ですが、その可能性は無限大です。ドローンだけでなく、ミサイルや航空機、さらには宇宙空間における衛星攻撃にも対応できる可能性を秘めています。また、レーザー兵器は、非殺傷兵器としての利用も期待されています。例えば、敵のセンサーや通信機器を一時的に無力化したり、敵兵士を幻惑させるなどの用途が考えられます。これにより、戦闘における犠牲者を減らし、より人道的な軍事作戦が可能になるかもしれません。

 今後の技術革新によって、レーザー兵器は、現代の戦争の姿を一変させるかもしれません。従来の火器とは異なる特性を持つレーザー兵器は、新たな戦術や戦略を生み出し、軍事バランスに大きな影響を与える可能性があります。しかし、同時に、レーザー兵器の拡散は、新たな軍拡競争を引き起こすリスクも孕んでいます。レーザー兵器が、平和利用と軍事利用のどちらに進むのか、その行方はまだ不透明ですが、今後の動向に注目が集まります。

令和6年6月18日

運営責任者 勝浦 悠太